最終的に戻るところ、それが家族

菅野崇 菅野崇(第10回公演『あの角を曲がれば』によせて/2009.11.15収録)    

長年付き合ってきてるから、遠藤が脚本を通して何を伝えたいか、何となくわかる

今回は、第10回公演『あの角を曲がれば』で主役をつとめる菅野さんに、インタビューをしていきたいと思います。よろしくお願いします。

よろしくお願いします!

ではまず、菅野さんが芝居を始めた時期ときっかけについて教えてください。

芝居をはじめたのは大学に入ってからです。それまでは芝居は全くやったことがありませんでしたし、さほど興味があったわけでもなくて。
はじめたきっかけは、高校のときの受験勉強の合間に聴いていたラジオです。ラジオドラマを聴いて、「おもしろいなー」と思って。 それで「演じる側に立ってみたい」ということで、大学にたまたま劇団かっぱがあったので、じゃあやってみようかなと思ったのがきっかけかな。
あとは、声優にあこがれて…っていう思いもありました。当時、劇団かっぱにも、同じように声優に憧れて入団してきた同級生がけっこういましたよ。

そういった経緯で劇団かっぱに入団して、今の旗揚げメンバーの方々と出会い、卒業後しばらくしてからTCTを旗揚げして今に至るわけですね。
卒業後にみなさん芝居から一旦離れて、その後、飲み会があって集まったときに「旗揚げしようか」という話になった…と以前伺っていたところですが、 その話が出たとき、菅野さんはどう思いましたか?

「面白そうだなぁ」と思いました。
働きはじめてちょうど2年ぐらい経った時だったんです、その話が出たのが。 それまで2年間、普通に社会人をやってたんですけど、どこか日常に物足りなさみたいなのを感じてたっていうのもあったので。

そして、旗揚げメンバーの一員となって今に至るわけですけれども、そうなると、芝居を始めてから、今年で…。

18歳からやってますから…14年?

14年経ってみて、芝居を始めた頃と、14年たった今と、役作りの仕方や芝居への向き合い方などに変化はありましたか?

ありますね。それこそ芝居を始めたばかりの頃は、学生劇団ということもあって、 軽い気持ちでやってたわけじゃないですけど、今と比べると「その時楽しければいいじゃん」って感じでやっていた部分もあったかもしれません。 脚本や舞台の方向性、目標とかも、今とは全然違ったし。 役作りに関しても、当時は既成の脚本をやってたってこともあって、その脚本を理解するっていうのにまず一生懸命、役作りもなにもあったもんじゃない!っていう部分が多かったです。
それに比べると、今は遠藤(雄史)が書いてくれた脚本があって… うちらも長年遠藤と付き合ってきてるから、遠藤が書く脚本がどんな感じか、何を伝えたいか、っていうことが何となくわかる。 その中で役作りをすすめるから、学生時代よりは確実に深い役作りができるようになってます。 あとは、歳もちょこちょこ重ねてるので(笑)、そのぶん視野も広がってきてるし、より充実した芝居ができるようになってきてるんじゃないかな。

TCTを立ち上げた当初は、菅野さんを含め、皆さんまだ独身で、社会人としてもまだ1〜2年目でしたよね。 そこから歳を重ねるにしたがって、責任ある仕事を任されるようになったり、結婚により家族が増えたり、それぞれいろんな変化があったと思うのですが、 そういう変化の中でなお芝居を続けていくにあたり、心情の変化はありましたか?

菅野崇 そうですね。今は昔よりいろんな面で確実に忙しくなってきてるから、そのぶん『時間の大切さ』っていうのを本当に強く意識しつつやるようになってきていますね。 それによって、良くも悪くも『捨てなきゃいけない部分』も出てくるし、それでもなお『力を抜いてはいけない部分』もあるし。
あとは、「まわりの人の協力があるからこそ自分は芝居が続けられる」ということを自覚するようになってきたかな。 それによって、自分も、いろんな方面に対しての責任感が強くなってきているように思います。

なるほど。では、旗揚げ当初からTCTの最前線で活躍し続けている菅野さんにとって、これまでのTCTの芝居の中でいちばん印象的だった自分の役と、その理由を教えてください。

うーん、第8回公演『小津の國の妖術師』(2008年10月)の時かな。
古佐津(こさつ)という役をやったんですけど、打ち上げのときにある人から「ちょっと変わったね」って言われたんですよ、役者の居方とか有り様が。 それは自分では全く意識したつもりはなかったことなんですけどね。
ちょうど、その公演の前に、他劇団の公演や企画公演に出る機会がけっこうあって、それを経ての古佐津だったから、 自分では意識してないながらに、それらの芝居を経て自分の中で何かが変わったんだなって思いました。
そういうふうに言われたっていう事実があったことがとても印象的ですね。

TCT以外の場所で培われたモノが、TCTでの芝居にいい影響をもたらしたわけですね。
それでは、菅野さんがふだん役者として芝居をするうえで、気をつけてることはありますか? たとえば、こういうところは意識しよう、こういうクセを直そう、とか…。

一応自分の中では、盛岡の方言やアクセントが出ないように気をつけてやってます、これでも(笑)。 ですけど、なにぶん、染み付いてしまっているものなので、なかなか直らないっていうのはあるかな。

生まれてからずっと使っている言葉ですから、直そうとしても難しいものですよね。

そうよね。(“だ”にアクセント)
…「そう“だ”よね」じゃなくて「“そ”うだよね」、ですね(笑)。

お客さんがTCTの芝居で楽しんでくれた時、制作という仕事のやりがいを感じる

では、役者のことからは一旦離れて、スタッフワークのことについても伺っていきましょう。
TCTでは役者とスタッフを兼ねるのが常で、菅野さんご自身も役者と制作スタッフを兼ねていらっしゃいますが、 どうやら菅野さんはもともと音響スタッフだったという話を伺っているんですけれども、そこから制作に移ったきっかけは何だったんでしょうか?

正直、「やる人がいなかったから」っていうのがきっかけなんです。
劇団かっぱの時にはずっと音響をやっていたんですが、TCTを旗揚げすることになった時、 その旗揚げメンバーには音響経験者がすごく多くて、一方、制作経験者が誰もいなかったんです。 それで、「音響のメンバーはもう揃ってるし、じゃあ俺が…」ということで始めたのがきっかけでした。

制作経験者が誰もいない中で…となると、最初の頃はかなり大変だったんじゃないですか?

そうですね、制作のことは何もわからずに、教えてくれる人もいなくて。 ただ、漠然と、やらなきゃいけないことっていうのは耳に入ってくるので、それを手当たりしだいやってたというかんじでした。

その中で、ひたすら実務数をこなして、勉強していったんですね。

そうですね。とにかくガムシャラにやってました。

では、そんな『制作』って、いったいどんな仕事なんでしょうか?

制作とは…芝居を、観に来てくれるお客さんの前で披露できるように、「舞台」というものに昇華させるための仕事ですね。
例えば、報道関係へのアプローチだったりとか、観に来てくれたお客さんに「また観に来てください」っていうダイレクトメールを送ったりとか。 盛岡にはウチ以外にもたくさん劇団がありますから、他の劇団が公演をするときにパンフレットにチラシを折り込んだりとか。 そういった多岐にわたる色々な仕事があります。
本来は、稽古場の確保とか劇場を押さえたりとかっていうのも制作の仕事に入ったりするみたいですけど、TCTでは、そういったところは他のスタッフにお任せしています。

制作という仕事は、性質上どうしても目立ちにくい部分が多いお仕事ではあるのですが、そんな中でも、制作をやっててよかったと思える瞬間は何ですか?

うーん、これは多分ひょっとしたら「制作をやってたから」っていう理由だけではないのかもしれないけど…お客さんが書いてくれたアンケートを見た時かな。
『お客さんがTCTの芝居で楽しんでくれた』という事実が分かった時に、制作という仕事のやりがいを感じます。 ひとりでも多くのお客さんに来てもらえて、喜んでもらえてよかったな、頑張ったことは無駄じゃなかったな、と。

この芝居が、家族の中での自分のありかたを見つめなおすきっかけになれば

では、ここでそろそろ、今回の公演について伺っていこうと思います。
今回の公演『あの角を曲がれば』が、なんと意外にも、菅野さんにとって初主役なんですよね?

はい。TCTでもそれ以外でも主役は初めてです。

今回、菅野さんが演じるのは、どんな役ですか?

『幸二』という、とある家族の二男の役です。
今回の芝居は「家族」をテーマとして描かれてるのですが、二男ならではの悩みっていうのがけっこう強く描かれてる脚本だな、って思います。 皆さんも「あぁ、二男ってこんな感じだよね〜」っていうのを、この芝居を見てて感じるんじゃないかなと。そんな役ですね。

ただいま絶賛稽古中ですが、今のところ、どんなことに気をつけて演じていらっしゃいますか?

そうですね…。 実際のところ、自分は長男なんです。 なので、「じゃあ、二男ってどういうふうなことを考えるのかな」とか、そういったものを、脚本を読みながら自分なりに考えて役作りをしています。 いつもの脚本以上に、今回は『脚本を読む』ということを、本当に、力を入れてやっていますね。
今回の遠藤の脚本は、主役の幸二を綺麗に追ってくれているなっていうふうに感じるんです。 脚本を読んでると、心の動きの変化がすごくわかりやすく描かれているので、今後より脚本を読んで、脚本家である遠藤のメッセージを受けて、演じていきたいと思っています。

今回の芝居は、長男・恭一、二男・幸二、長女・櫻子、三男・健吾、という4人兄弟の話で、菅野さんが二男・幸二を演じられるわけですが、 では、他のそれぞれの役を演じる役者さんたちの印象はどんな感じですか?

菅野崇 恭一役の遠藤(雄史)に関しては、これは本当にキャスティングの妙というか…普段の遠藤は、普段自分から見ても兄貴と思えるような人。 これまでやってきた芝居の中で、遠藤と俺が兄弟の役を演じるっていう機会が、これまでわりと多かったりしたんです。 そういった部分もあってかどうかはわかりませんが、舞台上で遠藤が自分のお兄ちゃんの役をやるというのは、とても何というか、しっくりきますね。 これがもしも、ばん(福士晴彦)くんだったら、とてもお兄ちゃんとは呼べないので(笑)。
で、櫻子。すごくしっかりした妹という設定。 演じる(池田)幸代ちゃんは本当に、TCTの中でいろんな仕事を率先して引き受けてがんばってくれてるなーって、いつも思ってて。 櫻子も、妹なんだけどしっかりしてて、いろいろがんばっていて。本当にそのまんまだなという感じですね。
健吾…(佐々木)俊輔くんは、客演ということもあって、実はあまり個人的な部分はよくわからないんですけど、でもそれって兄弟の中でも当てはまる話だったりすると思うんです。 設定上、幸二と健吾の間が10歳くらい離れてるんですけど、兄弟ってそれだけ年の差があると、だんだんわからなくなってくるんですよね。 今どんな感じでいるのか、何やってるのか、何が好きなのかとか。 でも俊輔くんが自分の弟としてそこに居るっていうのは、けっこうしっくりくる感じです。 あと、稽古場や、いろんな場面で、俊輔くんがまわりからすごく可愛がられてるのを見ると、まるで本当に末っ子みたいだなと思いますね。

では、菅野さんが思う、この芝居のみどころは?

主役である幸二は、自分の存在という部分で悩んでいたり、ある種のコンプレックスを持っていたりするんです。 人ってそんなに強いものじゃないし、誰しもいろんな悩みを抱えて生きてると思うのですが、そんな幸二に、どこか共感してもらえるような部分があればな、と。
最終的に、見てくれた人に、自分の家族の中での自分のありかたを見つめなおしてもらえるような、そんなきっかけになれればと思います。

自分が家庭を持ったことで、親との関係に更に気を遣わなきゃいけないと思った

では、菅野さんのリアルなご家族・ご兄弟のお話もここで伺いましょう。 まず、ご実家のご家族構成を。

父母はまだ健在です。で、3人兄弟です。3人とも全員男、長男が自分です。 長男と二男の間が6歳も離れています。二男と三男の間は2歳しか離れていないので、兄弟の中では、長男の自分だけが突出して年上といった感じです。

長男という立場は、普段はどんな感じ、どんな役割なんですか?

そうですね、長男は普段、けっこう気を配るというか。
弟たちは…二男は特に意固地というか、頑固な部分があるんです。いちばん下の三男は、末っ子なのでけっこう可愛がられてて、自由奔放。 その2人と、特に二男と親との間を取り持つというか、家族が一堂に会したときの空気の持っていきかたに気を配るっていうのはあります。

菅野さんご自身は、ご実家を離れてひとり暮らしを始められたのはいつ頃だったんですか?

社会人になってからだから、22歳の頃からですね。10年前ぐらいから。

ご実家に住んでいた時と、ひとり暮らしを始めた後とで、家族との関係性に何か変化は?

うん、変わりましたね。 自分が実家に住んでいた時は、逆に、実家にあまり居なかったんですよ。 大学生になってからは特に、遊びに出て歩いたり、大学行ったりバイト行ったりしてたので、ほとんど家に居る時がなかった。 だから親ともそんなに顔を合わせることもなくて、逆に親との間に気まずさというか、居づらさみたいなものがありました。
その後、社会人になって一人暮らしをはじめたときに、やっぱりそこで改めて、親のありがたみを感じましたね。 洗濯してくれたりご飯作ったり、全部親がしてくれてたんだよなぁ…っていうのが、身にしみてわかりました。

では、ひとり暮らしをしていた頃と、ご結婚なさってふたり暮らしになってからとでは?

そうですね、より一層、自分と親との関係に、変な意味じゃないけど、気を遣わなきゃいけないなと思いました。 自分も伴侶ができたっていうことで、そこと自分の親との関係性がこれから時が進むにつれてより強くなっていくというのは目に見えてるわけだから、 自分の嫁と自分の親との間をうまくとりもっていかなきゃいけないんだなと。
…いや、もちろん、両者の折り合いが今ものすごく悪いというわけではなくて、 逆に嫁はうちの両親のことをすごく大事にしてくれるんだけれども、それでも、そういうところでやっぱり気を遣わなきゃなと。 結婚することによって戸籍上は家族になったけど、血のつながりという部分では他人なので、特にもそういったところを意識しなきゃいけないなと思います。

ご兄弟との関係性はどうでしょう?

子供の頃は「弟っていうのは自分の後ろをついてくるものだ」と思っていましたけど、今では2人とも、本当に一人前の男なんだなーって思います。
弟2人はどっちも公務員で、警察官だから、当然ガタイも自分よりいいし、たぶん今腕相撲したらぜったい負けるし、 ひょっとしたら収入の面、一般的な社会的地位というところでも、今では自分のほうが下かもしれない。 それでもやっぱり、たまに集まると、弟2人には「お兄ちゃん」って呼び方をされるし、 兄貴として尊敬…してるかどうかは聞いてみないとわからないけど(笑)、自分のことを立ててくれてるんだなっていうのは感じてて。 いくつになっても兄弟なんだなって、ここ最近になって強く思います。

では、菅野さんにとっての『家族』とは、ひとことで言うと?

菅野崇 まわりまわって、なんだかんだで、最終的に戻るところ…かな。

観に来てくださった方々にとって、この芝居が、 「自分にとっての『家族』とは?」ということを考えるきっかけになってくれたら、嬉しいですね。
では最後に、このインタビューを見てくれた方々にひとことお願いします!

初の主役なので、温かい目で見てください(笑)。がんばります!

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