大事な幸せが、きっと見つけられる

布田智章・阿部菜摘 布田智章・阿部菜摘(リーディング舞台vol.1『たった一つの願い事』によせて/2009.9.23収録)

※インタビュアー:小笠原尚子
   

お客さんに『声の表情』だけで伝えなくちゃいけない。それが難しい。

今回は、TCTリーディング舞台vol.1『たった一つの願い事』に向けての対談です。
では、自己紹介からどうぞ。

【布田】 はい、えーと…布田智章(ふだともあき)と申します。旗揚げメンバーの一人です。 旗揚げからずっと役者と音響をやってたんですけれども、3年ぐらい前からちょっとお休みしていて、前作・第9回公演『腕呼争場(わんこそうば)』から、またちょこっとずつ関わりはじめました。 えっと、舞台に立つのはすごい久しぶりなんで、すごい緊張してるんですけど、頑張っていきたいなと思っています。よろしくお願いします。

【阿部】 よろしくお願いします!阿部菜摘(あべなつみ)です。布田さんが「3年前から休んでて…」って言ってましたけど、それとちょうど同じぐらいの時期、3年前に入団しました。 役者と照明をやっています。前回の公演では初めて照明オペ(オペレータの略。本番中、照明卓を操作する仕事のこと)をしました。 今回は布田さんと一緒に、『たった一つの願い事』を読みます。よろしくお願いします。

【布田】 よろしくお願いします。

【阿部】 布田さんと絡むの初めてですもんね。

【布田】 そうですね、ほんとに。まるっきり入れ替わり状態でしたから。

【阿部】 そうですね。それにリーディングってなると、またちょっと色合いもね、普通の舞台とは違うのかなという気もしますけど。どうですか、今回のリーディングは。

【布田】 んー、やっぱり、声だけで表現しなくちゃいけないということで、すごい緊張してるんですよね。お客さんに、『声の表情』だけで伝えなくちゃいけないので。それが難しいところかなーと。

【阿部】 そうですね。やっぱり体の動きとか表情とか、普段の舞台だとそれに助けられるところも大きいんでしょうけど、声だけで…っていうのは難しいですね。 あと、今回はオムニバスなので、『たった一つの願い事』以外にもいろんなストーリーがあって、それぞれちょっと世界観が重なっていたりするところもあって。一人何役かやる人も、けっこういたりしてね。

【布田】 うん、そうだね。

【阿部】 私も、『たった一つの願い事』以外にも出させてもらうので、その落差というか、ギャップをね、楽しんでほしいと思いますね。

【布田】 たしかに。全然違う役だもんね(笑)。

『願い事』って、失ってしまってもう取り返すことができないものなんだなぁ、って。

【阿部】 じゃあ、そんなオムニバス作品を1作品ずつ、突っ込んでいきましょうか。ではまず、『空』

【布田】 んー、ちょっと変わった感じというか…普通の読み語りのようで、そうでもないのかな、っていうか。

【阿部】 ザ・リーディング!って感じの作品ですよね。今回の作品の中でいちばん難しいんじゃないのかなって思いますけど、どうですか。

布田智章 【布田】 うん…これはねー、僕はやりたくないな、やれねぇなって正直思いましたね(笑)。どう読めば伝えることができるんだろうって。しっかり読んで、自分でちゃんと理解したうえでやらないと、ただただ流れるだけになっちゃうのかなって思う。

【阿部】 難しいですよね。話し言葉のようでいて、またちょっと違うというか…まぁそれはね、来て頂いてのお楽しみ。読む人によって、全然違う作品になるんじゃないかなと。

【布田】 そうだねー。

【阿部】 じゃあ、次は『ポジティ部』。『ポジティブ』じゃなくて『ポジティ部』。

【布田】 すごいこれは、ホントに…持ってかれるというか。なんかすごく、題名どおり、すごいテンションが高い。

【阿部】 まさにポジティブな感じで。

【布田】 なかなかね…これもやりたくない、ぜったい疲れる(笑)。

【阿部】 これも、って(笑)。やりたくない作品がいっぱいじゃないですかー、ポジティブにいきましょうよー。

【布田】 いやー、俺、ネガティ部だから(笑)。

【阿部】 ネガティ部!(笑)いやー、でも、おもしろいですよね。『たった一つの願い事』なんて言ってるから、ちょっと、こう、しんみりした系の作品ばっかりなの?って感じもあるかもしれないけど、こういうふうに、ちょっと笑ってもらえる作品もありますからね。そのさきがけというか。これは、TCTのメンバーではない、佐々木俊輔くんと熊谷航くん(共に岩手大学劇団かっぱ)がやってくれるんですが、若いパワーがね、凄いですよ。

【布田】 うん。若いんだけどすごい上手なんで…勉強させていただきます。

【阿部】 …なんで今日の布田さんはそんなに全般的にネガティ部なんですか?

【布田】 いやー…難しいですよね、こういう対談ってね(笑)。

【阿部】 あんまり緊張しないでくださいよー! じゃあ次、『分析稼業』。これは、今年の1月にやったTCTラジオドラマ収録の時にもね、全く同じ脚本を演じてるんですね。そのとき聞きに来てくださった方もいるのかなと思うんですけど。で、また同じものをやるとはいえ、キャストが違う。

【布田】 うん。キャストも違うし、ちょっとした演出も変わって。そこが見どころかなーと思いますね。

【阿部】 これもね、笑っていただけたらいいなと。どうですか、やってみたいですか?この作品は。

【布田】 んー…たいへんそうだよね、なんかね(笑)。

この作品、登場人物が2人いるんですが、もしもやるとなったら、どっちの役がいいですか?

【布田】 ○○○(ネタバレなので伏字)かなー。

【阿部】 なおちゃん(小笠原尚子)の役のほうですね。…名前言っちゃうとネタバレになっちゃうから(笑)。

○○○の何に魅力を感じてるんでしょうか。

【布田】 んー、やっぱ、ギャップを出せるじゃないですか、ちょっと。いろいろと。

あぁ、感情をあらわにする…

【布田】 うん、普段なかなかないからね(笑)。

【阿部】 この『ポジティ部』『分析稼業』のあたりの一連の流れはね、お客様の心をガッと掴めるチャンスかなと思いますね。 じゃあ次、『同棲』。これはね、私、大好きなんですよ。柏木史江さん(フリー)に書いていただいた脚本で。これ、いいですよねー。

【布田】 これはね、俺、途中まで、話の持って行きかたに完全に呑まれてしまって、途中で「え、そうだったの!?」ってなっちゃったんですよね。

【阿部】 じっくり聴いてほしいですね、読み手もすごく大事に読んでるので。これはもう、スタッフとしてはね、照明的にもちょっとこだわってやりたいなと思っているので。…これはね、いい話!とにかくいい話!!ちょっと自分でも読んでみたい。 では次、『エール』。これは、なおちゃんがメインで。どうですか?読んでみての感想は。

そうですねぇ…around30ぐらいの人、特に女性なら誰しも思うことがあるんではないかなーという思いをひとりごちつつ、ある人との「対話」を通しての心の動きをね…。そのへんの心情の変化を、頑張って表現していきたいなと。

【阿部】 『エール』もね、すごく素敵な話。同世代の女の人だったら…いや女の人じゃなくてもね、共感できるものだと思う。すごい素敵なテーマ。これも大好きですね。ちょっとホロッとくる。私、『同棲』『エール』のラインは、ヤバいもん。泣いちゃう。 そして、表題作の『たった一つの願い事』が、これらの作品の合間合間に挟まれるかんじで入ってくるんですが。その主役が布田さんですね。

【布田】 そう…なのかなぁ(笑)

阿部菜摘 【阿部】 この脚本を通して読んでみて思うのは…『願い事』ってね、すごくきれいな表現をしているけれども、それはもう取り戻せないものであったりとか、失ってしまって取り返すことができないようなものなんだなぁ、って。そんな、誰しも胸に思い描いているような『願い事』について、ひとつひとつ緻密に考えて書かれた脚本だなという感じがするんです。誰でも、一瞬前のことはもう取り戻すことができないので、なんていうか…ちょっと対象年齢も高いですよね、今回の話。

【布田】 そうだねー。

【阿部】 ちょっと大人っぽい仕上がりなのかなーと。布田さんはどうですか、演じてみて。

【布田】 んー、主人公の“聡介”が感じる『苦しみ』っていうのがいろいろあるんだけど、それをどう表現できるかっていうところがね…。うわべだけにならず、その人になりきってやりたいなっていうのは、思いますね。

【阿部】 役者をやってると、私もまだそんなにキャリアないですけど、絶対ぶちあたる壁だなと思うのがひとつあって…演じなきゃいけない役が、自分が経験したことがないものであったりとか、想像するしかないものだったりっていうのは、役者なら絶対に経験があると思うんですよ。今回もそう。実体験できない、想像するしかない役じゃないですか。だから、すごく、考えることを求められてるなーっていう気がするんですよね。頭でっかちにならないように、いろんな表現をして楽しんでいけたらいいなと思いますね。

朗読とも芝居とも違うから、普段以上に『呼吸』が大事になってくる。

では、今回はオムニバス作品で、たくさんの登場人物がいるわけですが、 自分の演じる役以外で、『一番やってみたい役』と『一番やってみたくない役』、その理由をそれぞれ挙げてみてもらえますか?

【阿部】 やってみたい役は、『たった一つの願い事』のヒロイン・亜矢です。すごく辛い話だし、辛い役なんですよね。それをどういうふうに表現するか…っていう。やっぱり、苦しみの中にある人なので、言葉少なじゃないですか。あの一語一語にどれだけ心を込められるか、っていうのがキーですよね。同じ理由で、やってみたくない役も同じ。亜矢です。難しそうだぁーと思って。

【布田】 たしかに難しそうだよね。言葉が少ない中で、しかもリーディングでそれを表現するっていうのはすごい難しいなって思う。間(ま)とかそういったものをうまく使っていかないと表現できないのかなって。感情を出すだけじゃなくてね。

【阿部】 そう。それに、単純な朗読とも違うし、お芝居とも全然違うので、普段以上に『呼吸』が大事ですよね。リーディングだから、それぞれ脚本を持って、文字を追って喋ってるわけで。それでいながら相手役との呼吸を合わせるっていう。それに、お客さんが読み手の言葉を聞いて理解するまでの間(ま)もあるので…たいそう難しいなと。特にも主人公とかヒロインって、難しいですよね。

【布田】 うん、難しい。

【阿部】 そんな主人公の布田さんは、どの役をやってみたいですか?

布田智章 【布田】 性別の概念を置いといて…とすれば、俺も亜矢がやりたいかな。俺の役“聡介”と正反対の立場にいる人だしね。自分が経験したことがないことを演じるっていうのは難しいと思うし。まぁ、想像しやすいといえばしやすいんだけどね。 やりたくないのは…『分析稼業』の、なっち(阿部菜摘)が演じる×××(ネタバレなので伏字)。難しそうだよね、返しとか、テンポとか。

【阿部】 あれね、まず、似せなきゃいけないんですよ。×××に。稽古中も特に誰も何も言ってくれないので、結局いいの?これでいいの?って(笑)。

   

いい作品ばかりだし、全部いいものに仕上がる確信を持ってやってます

では、今回のリーディング舞台のタイトルにひっかけて…お2人にとっての『たった一つの願い事』は何ですか?

【阿部】 私、ほっぺたにできたニキビを治したいです(笑)。

いいんですか?そんなことで。

【阿部】 だって気になるもん!…あ、もしくは、宝くじを当てたい!前後賞あわせて3億。で、大事に大事に一生かけてコツコツ使って幸せに暮らしたあと、子供たちや、私が残していくであろう配偶者や孫、ひ孫に…

【布田】 配偶者より先に死ぬこと前提なの!?

【阿部】 いや、私、ぜったい早死にすると思って。この前、高血圧だって言われたんですよ!(笑) で、ちゃんと財産を残して死のうかなーと…。

布田さんはどうですか?

【布田】 んー、娘たちが幸せになること、かなぁ。

【阿部】 …私、なに「宝くじ」とか言っちゃってんだろ(笑)

一気に、汚い人間みたいになっちゃいましたね。

【阿部】 私、汚い!欲まみれだ!!

【布田】 (笑)ほら、今、世の中がわからなくて不安ばっかりだから。なんとか幸せになってくれればなぁと。金持ちの旦那を見つけて…でも金がなくても幸せ、ってこともあるからね。まぁ、いい人を見つけてくれればなと思ってます。

【阿部】 今回のリーディングの作品って、みんなそれぞれ「手にしたい幸せ」がちゃんとあって、みんな金なんかじゃないキレイな幸せを探し求めているのに、私たちときたら…。

【布田】 金、金、金って(笑)。

阿部菜摘 【阿部】 それはそれとして(笑)、見に来てくれた人にも、そんな幸せを分け与えられたらいいですね。「今まで気づかなかったけど、それって大事じゃない?」っていう幸せが、このオムニバスの作品の中にきっと見つけられるんじゃないかと思うので。その幸せの形は人それぞれですが。

【布田】 そうだね。心が洗われる作品ばかりだからね。

【阿部】 さっきまで金、金って言ってた人のコメントとは思えませんね。

【布田】 まず俺らが洗われろと(笑)。

【阿部】 まず私たちがちゃんと読み込んで、私たちの心を洗おうと(笑)。

では最後に。これを録音している時点で、だいぶ本番までの日にちが迫ってるんですが、残りの稽古期間、そして本番、どんな意気込みで取り組んでいきたいですか?

【布田】 ひとりでも多くの人に感動を与えられるよう、がんばっていきたいと思います。

【阿部】 丁寧に作っていきたいですね。今回の作品は本当にいい作品ばかりだと思うし、全部いいものに仕上がるだろうという確信を持ってやっているので。あと、本番中に自分が読んでいて、お客様の泣き声や笑い声が聞こえても負けない!という意気込みでいこうと思います。 本当にいいものをお届けするので、ぜひ見に来てください!

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